アメリカ式歯科治療(目次)

日本人の歯科医とアメリカ人の歯科医との違いは何でしょうか?
日本の歯科医を見ていると、本当に大変そうです。身体を酷使しながら働き、自分の身体も家族も犠牲にして働き、常に求人と資金繰り、そして患者さん集めであくせくしながら開業を成功させたとしても、借金を返済するのがやっとの状況です。これほど健康にとって重要な仕事をしていながら、「どうしてこれほどひどい環境になってしまったのか?」「日本の歯科医は報われないな!」といつも思っています。
私が見学してきたアメリカの歯科ではとてもゆとりがあって、院長が笑顔で語りかけながら診察をしている姿がとても印象的でした。
もちろん日本のように保険制度が無いので金額は言い値ですから、ゆとりがあってあたりませでしょう。日本の場合は保険制度という枠の中に歯科医が完全に閉じ込められ、その枠から出ようとしません。
私の経験では、患者さんはしかるべきサービスを受ければ費用を支払うことは当たり前になります。もちろんそれに見合うだけの治療を行わなければなりませんが、うそ偽り無くかかるコストを請求して嫌がる人はいないはずです。
また、それを嫌がる人とは患者さんとしてよい関係は築けません。ただ、自由診療を行うためには歯科治療の根本的な考え方の変革が必要なのです。
20年以上臨床を続けてきたドクターとして、自分自身も、身体と家族を犠牲にして来た感覚は否定できません。そして日本の自由診療で歯の治療自体で成果を挙げようとすると難しいのは、とにかく神経質な人が多いということです。これは体にも問題があることが多いのでとても治療が困難になります。それで多くの日本の歯科医は本質とは違う審美やインプラント治療で自由診療を稼ぐといった本末転倒なスタイルになってしまっている感は否めません。
そう考えると、単にアメリカの技術を日本にもって帰ってきたからといって自由診療の歯科医院を成功できるわけではないのです。
「ゆとりある診療」、そして「歯科医になってよい人生だった」と思えるような環境が私が見学してきたアメリカにはありました。
1、アメリカではなぜアマルガム?
2、アメリカでの歯科医院の実際
3、アメリカと日本の治療何が違うのか?
4、アメリカの名医は控えめ?
5、アメリカの歯科の修復治療とは?(OPERATIVE DENTISTRY)

アメリカではなぜアマルガム?

アメリカでは今でもアマルガムが結構使われています。また、初期の虫歯に対してもっとも信頼性の高い材料として知られています。
私が始めてアメリカがえりの先生からアマルガムの技術を教えていただいたのはもう25年以上昔になります。
アマルガムは、私が大学で教わった頃はすでに使っている先生も少なく、また大学教育も一回だけ窩洞形成をしただけで、実際には充填はしなかったと思います。
しかし、ほとんどのアメリカの大学で歯科を学んだ先生はアマルガムを絶賛しますし、日本のアマルガムに対する偏見に憤りを覚えているようです。
「何でいまさら?」当時の私もアマルガムには疑問を持ったものです。
しかし、実際に患者さんに行った治療を見たり、自分がアマルガム充填の治療を受けて、その素晴らしさを実感し、考え方は180度変わりました。
アマルガムほど歯にとって良好な予後を期待でき、感染の機会を防ぎ、すぐに機能回復できる治療は無いとはっきり理解しました。
実際に私の講習を受けた先生のほとんどがアマルガムの素晴らしさに感銘を受けていますし、本気で患者さんにつめてあげたいとおっしゃいます。
アマルガムの利点
1、ラバーダム防湿をしたままなんか象牙質を除去し、感染を防いだまま充填が行える(インレー等は印象採得後、技工物製作まで時間がかかり、感染の機会がある)
2、金属としての適切な強度がある、アメリカのアマルガムは日本のものとは違い、とても充填しやすく、強度が高い。
3、抗菌性があるため、2時カリエスになりにくく、外してみてもほとんど虫歯になっていない。
4、レジンと違って吸水性が無いため、径時的変化が少なく、硬化後膨張する性質がある。
最近レジン充填がはやっていますが、私も矯正治療でバイトを上げるためにレジンを使っていますが、1ヶ月程度で悪臭が出るようになる。汚れがつきやすい、表面が削れてくる。といった問題が起こってくるので、恐ろしくて臼歯の咬合面に使いたいとは絶対に思いません。
もし使うとしたら、2年前後で交換が必要だと思います。

アメリカの名医は控えめ?

アメリカの歯科では治療費である程度の序列が決まってしまうきわめて合理主義的な仕組みです。
アメリカの歯科では専門医化が進んでいますから、治療に関しては、自分が専門でない治療に関しては同じレベルの先生を紹介することになりますが、紹介先の治療費のレベルは自分と同レベルで引き継がれます。
これは一定レベルの先生は一定レベルの先生を紹介し合い、価格帯も引き継がれることになり、これも合理的な仕組みとなっています。
したがって、お金を出せば夢のような歯科治療もうけられます。
でも高額だからといって治療技術があるとはいいきれないのもアメリカの本当の姿です。
「確かにそこそこ上手だけど、そんなにお金取るの?」という歯医者さんもいらっしゃると思います。
そこは日本と同じく、お金を出せばいくらでも目立つ宣伝は出来るし、またうまくやれば名医であるといったうわさを流すメディア戦略も十分可能で、有名で法外なほど高額な治療費をもらっている先生は山ほどいます。
しかし、アメリカの本当の名医はそのような人たちではありません。そもそも「歯科医は地味な仕事ですし、あくまでも患者さんを治すという、主体は患者で自分はむしろ裏方で患者さんを支える側」です。
それがメディアや宣伝や講演会などで有名人になるのは、もちろんそれなりの技術はあると思いますが、本当に患者さんのための名医かどうかは微妙です。
アメリカでの本当の名医はそもそもそこまでお金に固執していません。逆にお金や名誉に固執しすぎていては本当の名医にはなれません。名医になればなるほどその固執から離れてゆくものだと私は思っています。
名誉やお金を求めるとなぜかすばらしかった技術も輝きをうしなってきます。本当の名医は自分の治療費はきちんと自分で決め、法外な値段を付けたりしませんし、こつこつと良い治療を積み上げてゆきます。
したがって、通院中の家族などの紹介だけで十分やっていける先生がほどんどだそうです。特にアメリカ人は歯に関してはシビアで、治療技術が良い先生をとにかくうまく選んでいます。
最近ではインターネットなども利用をしているとは思いますが、歯科治療は何せ一人で治療できる患者さんの数が限られています。自由診療メインである医院では一生の間で1,000人も診ることは難しいのですから、気に入ってきてくれる患者さんだけでも十分で、場合によっては紹介がないとかかれない歯科医院もあったりするそうです。
アメリカは自由診療ですから、経営的にもそんなに多くの患者さんを集める必要も無いようですし、無理をすればそれだけ自分の治療の質が落ちることはわかっているからです。
意外にこのようなアメリカの名医(歯科医)の実情を知らない先生が多いようです。もちろん経営を考えるとそんな悠長なことは言っていられないですが。

アメリカでの歯科医院の実際

私が何度もアメリカを訪れ、歯科医院を訪問した感想を以下に述べさせていただきます。
1、歯科医は非常に社会的地位が高い
2、患者のためになる治療をしようとする倫理観の高い歯科医師が多い
3、最低限に治療技術は持っており、それを更に高めることでより高度で適切な歯科治療を行っている。

といったところです。
これらの事情から、アメリカで成功した歯科医は、以下のような診療体系が出来上がっています。もちろんアメリカでは保険診療が無いというのも重要なポイントです。

1、ゆとりある診療体系(一日に8人程度の診療しか行わない)
2、効率の良い診療システム
3、患者さんとの強い信頼関係

また、アメリカでは、高度な専門能力を大学院などで教育する場が整っており、日本の様に大学院に対しても目立った臨床教育カリキュラムがない状態とは異なっています。その結果上記のようなシステムで臨床を行うことが可能なのです。
また保険制度がないので、役人のわけのなからない細かい取り決めに右往左往される必要がありません。日本の保険制度の締め付けはまったくばかげていて、患者さんのためにもドクターのためにもならない、単なる雑用を増やし、非効率な診療を強要するかのようなシステムですから、まともな先生にはついてゆけないことでしょう。
特に歯科はその傾向がひどいと感じます。私は保険診療は行っておりませんから、とっても気が楽です。保険請求がないので月末あせることもありませんし、日々ゆったり診療することができます。ただ神経質な患者さんが多いのでそこはきちんと注意して診療しなければなりません。
日本ではこのような診療体系が出来上がっている歯科医院はほとんどありません。グローバル化する世の中で、日本もこのようなシステムを持つ歯科医院が全国に広がる必要があります(少なくとも1県に1医院ぐらいはあっても良いのではと思います)。
1に関しては、今の日本では、保険診療と混合して30人近い患者さんをさばかなければ経営が成り立たちません。⇒結局中途半端な治療にしかできない。(全顎を対象として治療計画に沿った治療は難しい)⇒自信を持った確実な診療体系を確立できない。
といった状況に陥っています。中途半端な診療は、再治療を招きます。そして、治療費の安さから、患者さんの歯に対する意識が低いままになる傾向があります。
実は再治療によって、多額の保険料と、通院にかかる時間、そして体の苦痛が実際にかかっています。
そして、それは歯科治療にかかる費用だけでは計りきれない経済的損失を生みます。また日本の保険制度の中で、安いという感覚から、歯に対する意識の低くなり、手入れが悪かったり、歯を大切にしない習慣で健康管理が徹底されない問題がおこっているのです。
結果的には、歯の健康状態が悪くなり、全身の健康状態も悪化させ、医療費にかかる費用を押し上げてしまっている可能性は十分考えられます。
2に関していえば、日本の歯科用ユニット、滅菌システム、診療体系のシステムがアメリカの効率的なシステムと比較して30年程度遅れています。⇒患者さんを多く診療しなければならないのにもかかわらず、効率が悪いために、更に診療にゆとりが無くなるといった悪循環が日本の歯科医療には現状としてあるのです。
3に関していえば、中途半端な治療しかできないため、治療が長引いたり、治療結果の確実性が低い。⇒強い信頼関係ができにくい。⇒強い選択意識で通院中の医院を決めている人は少ない、ある程度妥協していることが多い(金額との天秤にかけた上で選択している。歯科治療にお金をかけるといった感覚のある人がまだまだ少ない)。
といった状況を生みます。
歯医者さんはあまり感じないかもしれませんが、患者さんの中には、治療をきちんとしてくれればいつでも通院先を変わると考えている、意識の高い人も実は結構沢山いらっしゃるのです。
選ばれる歯科医となるためには、きちんとした技術、効率化した治療体系、を学ぶ必要があるのです。
日本の教育システムは、保険制度を基本に考えているため、本当の意味での高い技術力(アメリカでも実際に行われている)を身につける必要があるのです。
また治療技術を身につけるのも少なくとも35歳前後までに行う必要があります。このことを過ぎると、自分の開業したり、結婚などで生活力をつけなければならなくなったり
して、自分の好きなように行動すること自体が難しくなるからです。
従って、技術指導を受ける場合は最低でも20代からはじめる必要があります。

アメリカと日本の治療何が違うのか?

日本の歯科医の中には、アメリカより日本の歯科のほうが進んでいるかのように勘違いされている方も多くいらっしゃいます。しかし実際は日本の歯科はアメリカの歯科を20年程度遅れてついていっているのが事実なのです。
一方「アメリカで治療を受けた人の治療を見たけどそれほどレベルが高くなかった」
といった声も聞かれますが、そういった一面も私自身否定はしません。
なぜならアメリカはピンからキリまでさまざまなレベルに先生がいて、そのレベルに合わせて値段設定がなされ、腕が高ければそれだけ値段は跳ね上がる大リーグ形式です。
そこが日本では、保険診療と言う超低評価でも治療は一応そこそこ行われているといったことから、アメリカ人は値段の安さにびっくりするのかと思います。
一方アメリカのハイレベルの歯科医の治療を受けた患者さんの歯を日本人が見たりすることはほとんどありません。
アメリカでレベルの高い治療を受けた患者さんは日本の感染対策などの実情を知っていますからわざわざ日本の歯科医院を訪れることはありませんし、そのクラスになると急性症状の歯の痛みで外国で治療を受けるなどということは無いようにメインテナンスに気を使っています。
ですから実際のアメリカの高いレベルの治療を見た人はまれで、正直私自身も、アメリカのハイクラスの歯科治療は、写真やDVDぐらいでしか見たことがありません。しかし、話に聞く限りでは、アメリカのトップレベルの歯科医は、日本で一般的な(今は歯を削りすぎないよう気を付けてきていますが)歯を削りすぎる治療や、審美に偏った治療とは一線を画していることは事実ですし、経済的な成功を得て、立派な生活もされているようです。また意外にもそれほど法外な治療費を設定しているわけでも無いようです。(アメリカでは大臼歯一本90万円なんていう根管治療専門医もいるという話も聞いたことがありますが・・。少なくとも本当に一流の先生はそういったことはしないようで、そこそこの値段はしますが、破格ではありません)
一方、時々日本に講演にいらっしゃるアメリカの開業医の先生もいますが、私の感想ではお金目当てや業者とのタイアップの先生が多く、とてもアメリカの本当の一流の先生がわざわざ来ているとは思えません。(一流の先生はそんなことをするほど貪欲でもないし生活にも困っていないようです。時々大学病院に呼ばれて治療の指導をすることはあるようですが・・。)
20年以上昔、アメリカの歯科治療の本当の姿を聞いたとき、正直私は愕然としました。
「アメリカでは保存修復がもっとも重要な治療であるし、インプラントは訴訟の嵐だ!」と当時言われました。日本ではまだ補綴の先生が花形で、インプラントがまさに花咲こうとしていました。
そして、「歯を削ることなくどうやって咬合改善までを含んだ治療する」かということを真剣に考えているようでした。これに関しては詳しくはこちら
実際、今の日本ではちょうどそれから20年程度たったわけですが、今、まさしく日本の保存修復が重要なウェートを占め、インプラントはどんどん縮小してきております。まさしくアメリカの後を追う日本といった構図です。まあ、あらゆる面で日本はなんだかんだと言いながらアメリカの後を追っていることを今も昔も変わりありません。
感染対策についても20年ほど前のアメリカではクラスBの滅菌対策は標準でした。
それが20年ほどたった日本でやっと取り入れられ始めました。
このような事実から見て日本はアメリカのちょうど20年後を追いかけていると実感したのです。
アメリカの実情を20年以上見てきた私にとって日本の行く末は簡単に想像できるわけです。
いずれにしても、日本人は適応は遅いですが、必ず変わってゆく人たちなので、今後、アメリカで行われてきたことが日本にどんどん入ってくることは明らかです。
これからの10年、20年はどうなってゆくかはこちらのページをご覧ください。

アメリカの修復治療?(OPERATIVE DENTISTRY)

アメリカで修復治療はOPRATIVE DENTISTRYといいます、日本人の感覚だとFILLNG(材料を詰める)ぐらいの感覚で捕らえられていますが、実際は虫歯を取り除く作業は非常に重要で、感染原因の除去を行うためOPRATIVEがついているのだと私は考えます。
虫歯の数が少なく、歯に対する意識の高いアメリカでは修復治療が歯科治療の中でかなり重要視されています。
今もそうですが、今後日本でもますます重要視されてくると思います。
きちんとした修復治療が出来る技術は将来にわたって歯が長持ちすることに関与する上、コンサーバティブな治療であるため、アメリカの大学での修復治療は他の科と比較してもかなり重要視されています。
また基本的に治療に使用される材料はアマルガムやゴールドで、レジンや審美修復材は取り入れられていますが材料学的に臼歯部の修復に用いるには無理があると考えられています。特にレジンは咬合接触部分に用いてはならないと教科書にも載っていますから、レジンは非常に小さな虫歯や、横に出来た虫歯以外に使うことはほとんどありません。
また水分を吸収するという材料の特性から、咬合力がかからない部分の治療にはレジンではなくグラスアイオノマーセメントが使われることが多いようです。特に歯頚部カリエスではレジンの刺激による抜髄などを避けるために使用する材料は考えられています。
アメリカでは歯科医はアマルガム充填やグラスアイオノマー充填などの治療がきちんとできるという能力が最低限の歯科医に必要と考えられています。日本でアマルガムができる先生は非常に少なくなってきた現状からすると、アメリカでは日本の歯科医のほとんどが歯科医師としての最低限の修復技術を持たないということが出来ます。
私が昔、アメリカの大学を出た先生に治療を教わろうとした際「お前の歯科医としての能力はゼロだ!いや、日本の間違った治療技術を習得しているからむしろマイナスだ!」といわれました
残念ながら今日本で流行っておりますレジンはどんなに性質がよくなっていても「所詮樹脂は樹脂です」から硬いマイクロフィラーを混ぜたところでバインディング材の中に水分が入ってゆくのは避けられません。
長期間口の中で機能することに無理がありますし、長い間口の中に入っていると、吸い込んだ水分などで急速に物性は劣化してきます。アメリカでは2年前後で交換することを薦めるようです。古いレジンは除去のとき、相当臭いにおいがします。
そういった理由からアマルガムは虫歯の治療の第一選択となります。アマルガムは虫歯の除去後、感染の時間を最小にしてを咬合を取り戻すことができる唯一の金属材料であり、今のところ、それに代替する金属材料が存在しません。
そういった理由で、今でも世界的にも修復において第一選択となっています。間違ってもレジンがアマルガムに置き換わることはありません。
歯のことを考えた治療家は好んでアマルガム修復を行うのです。
患者さんのために、アマルガム充填を習得しましょう。

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